bridgeover 多面体ブログ

上州と武州の麗人 上武大橋

上武大橋でのめぐり逢い 6906

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橋の向こうの五十景
上武大橋

□上武大橋での めぐり逢い 6906


「ケガの具合はどう?」
 少女が尋ねた。
「だいぶ、良くなったよ」
 手の平を見せて
「ほら!」
 少年はグー、パー握りを繰り返した。
「でも、あと10センチでホームインだったね」
 少女は先週の野球の出来事を語った。少し笑いながら。
「ホームベースがズレていたんだよ」
 少年は少し気まずくて、ダイビングのポーズをとった。
「うまくいってる野球なんて野球じゃないよ 」
 少女は、そうなの?顔で少年の顔を見た。
「残念だったね」
 何処からか、声がする。
「残念だったね」
 再び声がする。
「誰?」
 少年は、数ヵ月前ここで起きた事を思い出した。そして
「絵里(えり)、今の声、聞こえた?」
「何の事?何も聞こえないよ」
 少年は橋に向かって問うてみた。
「この間の橋さんかい?」
「智(とも)、どうしたの?」
 絵里が心配して智の肩を軽く二度叩いた。
「絵里、橋に何か話しかけてみて」
「何かって?何を話せば」
 智は、少し考えて名前を聞いてみて?と。
 絵里は側道橋から何処に向かって話せば良いのか解らぬまま、大声で上武大橋に顔を横に振りながら質問した。
「な・ま・えを、教えてくださ~い」
「名前は、特に、無いんじゃ」
 と、橋がゆっくり静かに語った。
「絵里、聞こえた?」
 智は絵里の眼を見て確認してみた。
「何?何も聞こえないよ」
「橋が─名前は特に無いんじゃ─と言ったよ」
 智の声に、絵里は首を横に振り
「何の事?何も聞こえないよ。智には聞こえるの?」
「絵里の問いかけには、そう答えたよ」
 ウ~ンウンと頷いて絵里は
「私には聞こえないんだね?」
「ワシは、喋って、いるよ」
 と、橋はゆっくりゆっくり話し始めた。
「絵里には聞こえていないんだ」


□上武大橋 群馬県伊勢崎市・埼玉県深谷市 2021 october
□上武大橋での めぐり逢い
□物語はフィクションです。
利根川に架かる側道橋にて